障害年金は働きながら受給できるか


1. 働いていても障害年金を受給できる可能性はある


結論から言えば、働いていても障害年金を受給できる可能性はあります。今では、働いている方の障害年金の請求を支援している社会保険労務士は大勢いますし、私が実際に請求をお手伝いした方の中にも、働きながら障害年金を受給できた方はいらっしゃいます。最近ではこの点をテーマにした専門書籍も出版されていますので、「障害年金は働きながらでも受給できる」という考え方は、以前に比べるとかなり広まっているように思われます。一方で、私が病院で医療ソーシャルワーカーをしていた15年くらい前は、「働いていたら障害年金は受給できない」という考え方が主流だったように思います。その頃を知っている支援者(医師を含む)の中には、もしかしたら、今でも昔のままの考え方を信じている方もいるかもしれません。


2. 「働いていたら障害年金は受給できない」と誤解されている理由


このような考えが信じられているのも、やむを得ない面があると言えます(実際には、受給できている例がたくさんありますので、誤解です)。と言いますのも、現在の障害認定基準の文章表現が、かなり重い障害の状態を想像させるものになっているからです。

障害認定基準によると、1級は「身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものとする。・・例えば、身のまわりのことはかろうじてできるが、それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの・・」とされ、イメージとしては、入院中か、在宅であれば自室(寝室)内でのみ過ごすような障害の状態が想定されています。2級は「身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるかまたは日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。・・日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度のものである」とされています。

障害認定基準のこうした文章表現があるため、「働いていたら障害年金は受給できない」という考え方が広く信じられているのではないかと思われます。


3. 働き方の多様性を踏まえる必要性


障害認定基準の中で、2級の障害状態の記述に、「労働により収入を得ることができない程度のものである」とありました。ここでいう労働による収入とは、健康な人を基準にした労働であり収入であると考える必要があります。現在、働いているとは言っても、その労働による収入だけで、自立して生活ができない場合には、2級の障害状態に当てはまる可能性を検討できると思っています。特に、現在は働き方も多様になっており、一概に働いているといっても、障害認定基準が想定しているような標準的な労働ばかりではないからです。特に、障害者手帳をお持ちの方の場合、標準的な労働以外にも短時間労働や、障害者雇用、福祉事業所での雇用労働、福祉的就労など様々な働き方があり、実際には相当の配慮を受けて、なんとか働いているという場合も多いでしょう。また、生活していくために、無理して働いてはいるが、そのかわりに日常生活面にいろいろな支障が出ているといったケースもあるのではないでしょうか。そのため「働いているから障害が軽い。だから障害年金は受給できない」と即断するわけにはいかないと思っています。

 


4. 年金受給の権利は請求しないと発生しない


年金受給の権利は請求をして初めて生じます。請求をしなければ、どれだけ要件を満たしていたとしても、自動的に年金を受給できるということはありません。本人からの請求を受けて審査をした年金事務所が、最終的に受給権の有無を決定します。その際、障害年金の請求については、その障害の状態に関して認定基準により詳しく決められてはいるものの、それでも解釈に余地があることも事実です。こうした制度設計になっていることを踏まえて、私としては「請求してみないとわからないけれども、請求をしなければ始まらない」というスタンスで相談を受けています(ちなみに、請求すべきかどうかの判断基準として、社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入する形態で働けているか否かが一つの基準になると、私は考えています)。