障害者の雇用義務について


1. なぜ、障害者の雇用義務なのか


雇用義務制度は、文字通り事業主に対し、障害者の雇用を義務付ける制度です。具体的には、法律上、一定規模以上の事業主には、一定の割合で障害者を雇用する義務が課せられています。この義務は、公的機関に対してだけでなく、民間企業にも適用されます。

 

資本主義と自由競争を支持する日本が、法律を通じて民間企業の経済活動に介入することは、強制的な措置として捉えられるかもしれませんが、こうした措置がなければ、障害者の雇用はなかなか進まず、結果的に差別の状態が生まれてしまうことが懸念されます。そのため雇用義務制度は、「積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)」として現在世界的に正当化されています。


2. 雇用義務制度の概要


わが国の雇用義務制度は、「雇用率制度」と「雇用納付金制度」の二つの制度によって構成されています。雇用率制度は、一定規模以上の事業主に対して、法定雇用率に基づいて算出された法定雇用障害者数まで障害者を雇用する義務を課す制度です。2024年2月現在、この制度の適用対象は常用雇用労働者が43.5人以上の事業主に限られており、法定雇用率は民間の事業主の場合、2.3%となっています(今後改正の予定があります)。

 

雇用納付金制度は、法定雇用率を達成しない事業主から納付金を集め、それを法定雇用率を達成している事業主などに調整金や報奨金として支給する制度です。法定雇用障害者数に不足する障害者1人につき、月額5万円の雇用納付金を納付する義務があります。つまり、法定雇用障害者数に1人満たなければ年間で60万円を、もしも2人満たなければ年間で120万円を納付しなければなりません。ただし、この制度の適用対象は、雇用率制度とは異なり、従業員が100人超の事業主に限定されていますので、その点は留意が必要です。

 

雇用率制度と雇用納付金制度の仕組みについて、こちらの記事で詳しく説明をしています。


3. 「割当雇用制度」として世界的に普及している


雇用義務制度は、障害者を雇用する義務を事業主に公平に割当てることから、世界的には割当雇用制度と呼ばれています。割当雇用制度は、フランスやドイツでも採用されており、例えばフランスの法定雇用率は、実は日本よりも高く設定されています。こうした世界的動向を踏まえると、日本の法定雇用率は、今後もっと高く設定されることも十分に想定されます。上記の通り、納付金の額というのは、決して小さくない金額ですので、障害者雇用の推進は、重要な経営課題だと言えるでしょう。


4. マクロな文脈からみた障害者の雇用義務


上述の通り、障害者雇用の推進は企業の重要な経営課題ですが、マクロな文脈からみると、昨今強調されることも多くなった「ビジネスと人権」の問題や「社会の持続可能性」の問題とも関連しています。

 

「ビジネスと人権」の観点では、障害者権利条約の締約国として日本は、国際社会から障害者雇用の推進を求められています。障害者権利条約の締約国は、その実施状況がモニターされます。そして、実施状況が芳しくなければ、勧告を受けることになります。

 

「社会の持続可能性」の観点では、言うまでもなく、将来、ほぼ確実に現実化する労働力人口の激減に備えて、社会の担い手を確保するということが、私たちの社会を持続させるために不可欠です。

 

このような理由から、企業に対する障害者雇用の義務は、今よりも厳しくなることはあっても、ゆるくなることはありません。そうであるなら、障害者の雇用義務を前向きに捉えて取り組みたいですね。障害者雇用に初めて取り組む場合には、障害者トライアル雇用助成金を活用して、まずは試行的な雇用にチャレンジすることがお勧めです。