1. 制度の対象となる障害者とは
わが国では、障害者雇用促進法という法律により、事業主に対して障害者の雇用義務が課せられています。雇用義務にかかる制度は、大きく雇用率制度と納付金制度にわけられます。雇用率制度は、一定規模以上の事業主に対して、法定雇用率に基づいて算出された法定雇用障害者数まで障害者を雇用する義務を課すもので、納付金制度は、法定雇用率を達成しない事業主から納付金を集め、それを法定雇用率を達成している事業主などに調整金や報奨金として支給するものです(雇用義務については、こちらの記事で詳しく説明しています)。
これらの制度を適切に運用するためには、障害者の人数を正確に数える必要があります。そして、そのためには対象となる障害者が明確でなければなりません。そこで障害者雇用促進法は、制度の対象となる障害者を明確に定義しています。雇用率制度の対象となる障害者を「対象障害者」と言いますが、対象障害者は、身体障害者手帳、療育手帳等、精神障害者保健福祉手帳のいずれかの手帳を所持している障害者と規定されています。つまり雇用率制度の対象として数えることができる障害者は手帳所持者に限定されているということです。なお、療育手帳等は、知的障害者に交付される手帳であり、「等」としているのは、自治体によって名称が異なっているからです。療育手帳のほか、愛の手帳と呼称している自治体もあります。
2. 障害者手帳の種類
雇用率制度の対象障害者は、三障害のうちのいずれかの手帳を所持する方に限定されていると述べました。そこで障害者手帳のことを少し説明をします。身体障害者手帳は、障害の部位や重さによって、1級から7級まで区別があり、1級から6級までの方と7級の障害を2以上有する方に手帳が交付されます。知的障害者に交付される療育手帳等は、A1、A2、B1、B2といったように4段階の等級になっているのが一般的で、その等級に該当する方に手帳が交付されます。精神障害者保健福祉手帳は、1級から3級まであり、その等級に該当する方に手帳が交付されます。いずれも数字が小さいほど障害の程度が重いことを表しています。なお、発達障害者については、発達障害者手帳というものはありませんので、知的障害を伴っている場合には療育手帳を、伴っていない場合には精神障害者保健福祉手帳を申請し、所有するケースが多いです。
3. 雇用障害者数のカウント方法
雇用している障害者のカウント方法にも細かいルールがあります。障害の種類・程度と労働時間によって数え方が異なります。ですので前述の手帳の種類と障害等級が重要になるわけです。
右表の通り、身体・知的障害者(療育手帳)と、精神障害者とで数え方が異なります。身体・知的障害者では、「重度以外」と「重度」の二つの区分があります。重度以外の場合は、週の所定労働時間が30時間以上の障害者1人は1とカウントし、20時間以上30時間未満の障害者1人は0.5とカウントします。重度の場合は、倍にしてカウントできることとなっており、これをダブルカウントと呼んでいます。精神障害者には、「重度」という考え方がありません。1人は1とカウントします。ただし、当分の間、20時間以上30時間未満でも、1人を1とカウントし、0.5とはしません。これは、疲れやすく長時間働くことが難しいという精神障害の特徴に配慮したものです。
なお、赤字表記は、令和6年4月1日から施行される新たな数え方のルールで、10時間以上20時間未満の重度の身体・知的障害者と精神障害者は、1人を0.5とカウントできるようになります。より短時間で働く選択肢が増え、障害者雇用もますます多様になっていきますね。
4. 納付金と調整金・報奨金
このようにカウントして、実際に雇用している障害者数が、法定雇用障害者数に足りなかった場合、足りない障害者1人につき、月額5万円の雇用納付金を納付しなければなりません。この納付金のルールは、常時雇用している労働者数が100人を超える事業主のみに適用されます。一方、法定雇用障害者数を超えて障害者を雇用している場合には、その超えて雇用している障害者数に応じて1人につき月額2万9千円(令和5年3月31日までの期間については2万7千円)の障害者雇用調整金が支給されます。この調整金も、常時雇用している労働者数が100人を超える事業主のみに適用されるものですが、100人以下の事業主で一定の人数以上の障害者を雇用している場合には、報奨金という名目で金銭が支給される仕組みもあります。したがって、100人以下の事業主にとっても、障害者雇用を積極的に推進することには、経営的に重要な意味があります。
障害者雇用は企業の社会的責任の一環として大切ですし、経営的にも重要な課題です。障害者雇用は、取り組みを具体的にステップ化することで着実に進めることができます。これから障害者雇用に積極的に取り組もうと考える企業様におかれましては、ぜひ、お気軽にご相談ください。